
都内の某血液内科クリニック 白鳥 由実子
承認欲求<「人として何が正しいのか」
都内の某血液内科クリニック
白鳥 由実子
略歴
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三重大学医学部医学科卒業。
東京大学大学院医学系研究科修了。
東京大学医学部附属病院、日本赤十字社医療センターで血液内科の診療に携わった後、
訪問診療の経験も経て2024年7月都内の某血液内科クリニックを開院。
江戸川病院腫瘍血液内科非常勤。
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現在の仕事についた経緯
中学生の頃、救急医療のドキュメンタリーを見ることが何度かありました。普通に生活していた人が急な病気や事故で倒れ、そのまま亡くなってしまう、そのような場面にショックを受けました。自分の家族や身近な人が急に死んでしまったらどうしようと思い、医師になりたいと思いました。家族、親族には医療関係者は1人もいませんでした。
決心したのが遅かったため、1年間自宅浪人で勉強し、医学部に進むことができました。とらえどころのないものに興味を持つ性格なのか、専攻は精神科か血液内科と考えましたが、血液細胞のダイナミックかつ神秘的な機能が気になり、血液内科を選びました。血液内科は白血病や免疫異常など、暴走する血液細胞を相手にする科です。15年以上病院で勤務してきましたが、子供の出産によりワークライフバランスを考え直さなくてはならなくなり、なぜか開業、しかも血液内科での開業という、あまり前例のない選択肢が自分の中で膨らんできました。大阪に血液内科で開業された先生がいらっしゃり、親身なアドバイスはたくさんいただきましたが、ほとんど“蓋を開けなければわからない”チャレンジングな開業になったと思います。きっと社会のニーズはあると信じ、悩むことはありつつも今日に至っています。
仕事へのこだわり
研修医時代は天然キャラで出来のいい医師ではありませんでした。専攻は東大病院での研修を選びましたが、上司には「死ぬ気でやれ!」と言われました。その後の長い医師生活の中で、新人医師や医師以外の職種の20代と接する機会は多々ありましたが、同じ年の自分と比べるとはるかにしっかりしていると感じます。病院の危機管理では、インシデント(類ヒヤリハット)は個人のエラーではなくシステムエラーと捉える考え方があります。他人の前にまず自分に改善できる点はないかという視点を大切にしています。元々子どもの頃からどちらかというと劣等感が強く、学生の頃は自分の能力の低さに落ち込むこともありました。逆に、自分への期待を諦めることで気持ちが楽になり、少しでも誰かのためになればそれでいいと思うようになりました。
物事の良し悪しの判断は、相手のためになるかという物差しで考えるようにしています。自分の承認欲求は極力抑え(元々あまりないのですが)、まずは目の前の患者さんの立場に立って、困っていること、相談したいことは何か想像力を駆使し、クリニック経営もビジネスではありますがやはり医療機関ですので、儲けの大小よりも目の前の患者さんに対して何ができるかという視点を大切にしています。京セラの故稲盛和夫さんは「人間として何が正しいのか」を主軸に企業経営をされていました。私も人として正しいことをやっていれば、社会から必要とされ、返ってくるものがあると信じています。
今後の展望・私の夢
開業してまだ半年ですし、自分のクリニックをただ大きくしたいという願いは正直ピンときません。患者さんのためにできることをやり続けた先に、社会に対する実行力が生まれてくるといいと思っています。自分は仕事が好きなので、雇用という形で1人でも多くの人に仕事をする幸せを与えられるといいと思います。仕事をしたいけれど環境的に続けにくい、まだまだできるのに定年になった、そのような人に機会を作ることができればこの上ないことです。それと、日頃から児童虐待ややるせない事件のニュースに心を傷めています。子どもの頃の幸せな気持ちが、いかにその後の人生に大切か…。虐待の連鎖という現実も存在します。もう1つ人生があったら、子どもの心のケアに関わる仕事をしたいという気持ちもありますが、せめて児童養護施設などの子どもたちに少しでも笑顔を作れる何かができればと考えています。
若者へのメッセージ
良くも悪くも、人生何が起こるかわかりません。大病院に勤めていた頃、まだ若くて小さなお子さんもいるのに、数ヶ月〜数年にわたって治療をしてきたのに、病気が悪化して旅立たれた患者さんが何人もいました。21歳の誕生日に生涯を閉じた患者さんもいました。目の前の患者さんで起こったことは、自分にも起こりうることだと思っています。自分の大切な人をある日突然失ったこともありました。容赦ない現実というものは存在し、どんなに心が苦しくても、それでも人は生きていかないといけないというのも現実です。人は体ではなく心で生きるものと思っています。想像しにくいですが、たとえ体が病気でボロボロでも、心の持ち方1つで幸せにはなりうると思います。どうか自分の心を守ってください。つらい時期が続くときも、どう考えて受け止めるかで時間が全然違ってくるはずです。今はネットにいろいろな情報や物言いが溢れています。実際、どれが正解かわからない、正解は1つではないということもあります。人をうれしくさせる情報、不安にさせる情報は気を引かれやすいですが、真偽を確かめるための情報収集をなさってください。心の中に大切な存在を作ってください。人頼みではなく、自分自身で生きてください。
都内の某血液内科クリニック