モビリティの進化と未来予測。 TEXT BY Noriko Ando EDIT BY Shunpei Kudo
モビリティの進化と未来予測。
MaaSという新たなテクノロジー
人口構造の変化や環境意識の高まりによって、人の移動、いわゆる”モビリティ“の進化が始まっている。単なる移動手段としての価値から、社会に存在する需要を満たして問題を解決し、人々の生活を向上させるものとして、世界の国々や企業が重きを置いて取り組んでいる分野の一つがモビリティと言えるだろう。
そんな中、現代モビリティのトピックとして挙げられるのが、企業や自治体におけるMaaS(Mobility as a Service)の推進だ。MaaSは交通・移動手段をサービスとして提供する概念のことを指す。テクノロジーによって公共交通機関やシェアモビリティ等を一元的に管理し、ユーザーが目的地までシームレスに移動できるプランを提案するものだ。予約、支払いまでオンラインで完結できるだけでなく、ユーザーは利便性を得ながら時間とコストを最小限に抑えられるというメリットもある。
MaaS先進国フィンランドの事例
そんなMaaSの先進国はフィンランドだ。世界初のMaaSアプリ「Whim」は、一つのアプリで域内全ての都市交通サービスをユーザーに提供し、公共交通機関やタクシーのほか、自転車、車、その他のオプションすべてを利用して好きな場所に移動できるサービスとなっている。首都ヘルシンキのWhimユーザーの交通利用状況は、サービス開始前では公共交通が48%、自家用車が40%、自転車が9%だったところ、サービス開始後は公共交通が74%と大きく伸び、それまで減少傾向にあったタクシー利用が5%に増加したという。一方で、自家用車は20%に減少した結果が報告されている。
トヨタが企む進化形モビリティ
日本企業においても、MaaSを推進する様々な取り組みが進んできた。その中心にいるのがトヨタだ。
2018年、トヨタは「自動車をつくる会社」から、「モビリティカンパニー」にモデルチェンジすることを宣言。人々の「移動」に関わるあらゆるサービスを提供する会社になることを目指して取り組みを進めてきた。その動きの一つとして、あらゆるモノやサービスがつながる実証都市「コネクティッド・シティ」を静岡県裾野市に設置する予定も立てており、2021年から着工し、2024~2025年の間に実証実験の開始を目指している。人々が生活を送るリアルな環境のもと、自動運転、MaaS、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム技術、人工知能(A I)技術などを導入・検証できる実証都市で、技術やサービスの開発と実証のサイクルを素早く循環させ、新たな価値やビジネスモデルを生み出し続けることを目的にしているという。
都市型MaaS推進の動き
日本でもMaaSの導入が急がれているが、その背景には大きく分けて2つの需要がある。その一つが、都市における交通渋滞や二酸化炭素排出を解消するための需要だ。例えば小田急グループではMaaSアプリ「EMot」を運用しており、目的地までの複合経路検索機能では鉄道に加えてバス、シェアサイクル、乗り合い型オンデマンドシャトルを組み合わせることを可能にしている。2023年7月の法改正によって、16歳以上なら運転免許不要・ヘルメットの着用が努力義務で電動キックボードに乗れるようになったことも、目的地までのラストワンマイルを移動するための都市型MaaS推進の動きとして捉えることができるだろう。
交通インフラの解消に向けて
そしてもう一つの需要となる社会背景が、過疎地に住む人々の交通インフラを維持しなければならないということだ。そのモデルケースとして、三重県菰野町「おでかけこもの」普及の取り組みが挙げられる。菰野町は2020年から町独自の MaaS「おでかけこもの」の提供を開始し、利用者を増やしてきた。コミュニティバスの利用者が減少して事業採算性の悪化を招いていたところ、利用者の予約に対してA Iによる最適な運行ルートや配車をリアルタイムに行うオンデマンド乗合交通「のりあいタクシー」を導入。高齢者によるスマホを使用したW E Bでの「のりあいタクシー」の予約が浸透し、電話での予約よりも大きな割合で利用されている。
地域の課題も解決する手段として、その重要な役割を果たしているMssS。導入にあたっては現場の意見も聞きながら丁寧に進めていく必要があることは言わずもがなだが、得られる恩恵は大きなものになり、生活の利便性はますます向上していくだろう。未来のモビリティの進化とともに、あらゆる社会課題の解決が成されることを切に願いたい。