弁護士・政治評論家・タレント 橋下 徹

周囲を動かすパッションを。

感情をむき出しにさせる議論からエネルギーが生まれ、世の中が動いていく。
「昨日より1ミリは前進したはず」、そう思える毎日を送ってもらいたい。

38歳の若さで大阪府知事に就任後、大阪市長や国政政党の代表を歴任。政治家として行政改革に尽力してきた橋下徹氏。弁護士からスタートしたキャリアは、「困っている人を助けたい」という想いが原点だと振り返る。時に周囲と衝突しながらも、志を貫き続ける橋下氏に、人を惹きつけ動かすために必要なことを聞いた。

―――――弁護士として、そして政治家として社会課題の解決を担い続け、政治家引退後も精力的に活動を続けていらっしゃいます。そうした活動の原動力になっているものは何なのでしょうか?

色々ありますが、根底にはやはり「困っている人がいるならば助けたい」という想いがあるからでしょう。個人レベルだと弁護士ですし、もっと集団になれば政治ということになったように思います。今はコメンテーターとしてテレビ番組に出演することもありますが、そういった場でも解決方法を提案するようなコメントを心がけているので、その想いは今も変わらず自分の中心にあるものです。100%理想の形にならなかったとしても、自分が何かアクションを起こしたことで少しはマシになればいいなと。

ただ、それと同時に単なる人助けで終わるのではなく、そういった仕事を通じて自分の付加価値を上げていくことが重要だと考えてきました。自分のステップアップも実現したいという想いを持って、これまでやってきたつもりです。

―――――様々な活動の中で社会に何かを与えていくためには、ご自身の影響力も重要になるかと思います。特に人を惹きつけるために意識していたことはありますか?

ベストな解決策や行動指針といったものは、今トレンドとなっているAIなど、デジタルツールを使えば簡単に出てくるでしょう。それらはとても有効なツールだと思いますが、やはり人間を巻き込んでいくときにはパッションや熱量が必要になってくるのではないでしょうか。それは特に政治家時代に強く感じたことでもありました。役所でも職員や官僚は緻密で穴のないデータを使って論理的に説明してくれますが、それだけで人が動くかといったらそうではない。納得や理解はするけど、魂が揺さぶられて行動を起こすほどにエンジンに火はつかないんです。だからこそ「自分はどうしてもこれがやりたいんだ」というような思いや姿勢を示さなくてはいけないと思うんです。

それに加えて、賛否両論が沸き起こるようなテーマを掲げることも重要でしょう。人がパッションを持って議論するような問題提起が必要だからです。僕らが過去に受けてきた教育は、みんなが合意できるような物事の進め方が良いとされてきましたが、全会一致するようなものから解決策や情熱は生まれないと思っています。感情をむき出しにさせる議論からエネルギーが生まれ、世の中が動いていくのではないかと。

―――――企業経営においても、そうしたパッションや熱量が必要ですね。

もちろん重要だと思いますね。あくまでも議論で解決する民主主義を前提にすればですが、ある意味分断に近いようなテーマを持つことが社会のエネルギーを動かす原動力になると思っています。

僕の政治家時代は、そういった熱のこもった球ばかりを大阪の有権者に投げ続けてしまい、若干皆さんを疲弊させてしまったかもしれません。つまりバランスも必要だということです。熱を発する、また熱を発してもらう。そういった環境を作るのもリーダーの役割なのではないでしょうか。

―――――今後、ご自身が熱量を注ぎたいものはありますか?

僕は政治家時代、大阪都構想の住民投票に、ある意味すべてのエネルギーを注ぎ込んでいました。しかし一旦そこで否決という結果が出て、何となく自分が走り続ける課題みたいなものは区切りがついたのかなと感じています。ですから、今は自分の経験や積み上げたものを次世代につなげて役に立ちたいという想いがより強くなってきました。政治ではなく、司法の分野での新たなチャレンジとも言えるでしょう。新たな法律事務所の在り方を考え、旧態依然ではなく、これまでの方法に捉われないやり方で若い世代をサポートできないかと思っているんです。もちろん、新たな政治家を目指したいという若者がいれば、そうしたサポートもしていきたいですね。

―――――最後に、若い世代に向けてのメッセージをお願いします。

「競争せず、成長を目指すことなく適度に分かち合い支えあいながら生きていこう」とメディアで発言する方も増えてきました。しかし、やはり多くの人が向上心を持ち、どんどんステップアップしていく世の中になってほしい。昨日よりも今日の方が一歩前進した、という想いがないと熱量は生まれてこないと僕は思うんです。競争で誰かを蹴落とせとか、そういったことではありません。人生は一度きりなのだから、その小さな一歩を積み重ねていくことが大事なのだということです。気付いたら変わっていたと思えるような、そうした生き方をしてほしい。手抜きをすれば相応の結果にしかならないはずです。年を重ねたときに後悔はしてほしくないですから、無駄だと思うことも沢山あるかもしれませんが、寝る前に「昨日より1ミリは前進したな」と思えるような毎日を過ごしてもらいたいですね。