準硬式野球部の新たな視点「ウェルビーイングな組織作り」への道 帝京大学 浅野修平監督
準硬式野球部の新たな視点「ウェルビーイングな組織作り」への道
帝京大学の準硬式野球部の取り組みを教えてください。
帝京大学 準硬式野球部ではウェルビーイング※な組織を目指して活動しております。
※ウェルビーイングとは
心身と社会的な健康を意味する概念。満足した生活を送ることができている状態、幸福な状態、充実した状態などの多面的な幸せを表す言葉である。 瞬間的な幸せを表す英語「Happiness」とは異なり、「持続的な」幸せを意味するのがウェルビーイングだ。
きっかけは、「勝たなければいけない」と思い始めたからです。2022年に初めて帝京大学 準硬式野球部{以降(自チーム)とする}は、全国大会に出場しました。実は、私は7年前から自チームの監督をしているのですが、何が何でもという勝ちにこだわり始めたのは3、4年前からです。それまでは自チームの勝利よりも、準硬式野球界としての東南アジアなどへの野球普及活動に夢中でした。ただ、ある時、尊敬する人に「自分のチームを強くしないと、貴方のやっていることに価値は生まれない」と言われたんですね。強くないと誰にも見てもらえず、応援されないことに気付きました。だから私は「価値」と「勝ち」どちらも意識するようになりました。勝ちはじめると周りからの評価も違いました。「全日本を目指す」「日本一」など頭につく言葉ってとても重要ですよね。
ただ、勝ちを目指しすぎるといろんな問題が生まれるようになりました。今、自チームには4学年で100名以上の部員が所属しています。ただ、試合に直接関わるのは試合に出ている10名で、あとはベンチを含めて合計25名のみです。毎試合メンバーが入れ替えられるとはいえ、残りの75名はスタンドメンバーになります。勝つことさえできれば、試合に出られない選手含めてみんなが幸せになると思っていたのですが、現実はそうではなく、逆に、試合に出られない選手の幸福度は下がったように感じました。
そうした中で、全選手の幸福を追求するために模索した結果、近年、企業でも取り組んでいる「ウェルビーイング」という考え方を見つけました。選手の家族やOB、例えばキャンプ先の地域の方々、自チームのSNSを見てくれている方々、私たちに関わるすべての人たちの幸せを追求することで、自チーム全員の幸福感も得られるのではないかと考えています。そのために私はウェルビーイングな組織作りを心がけています。
実際にどのような取り組みをされているのですか?
さまざまな取り組みがありますが、代表的なものをあげると、「野球を通した交流イベント」をしています。ビジネスマンと置き換えると分かりやすいのですが、自分で営業で売り上げをたてることでも、部下を素晴らしい営業マンに育てることでも、幸せを感じますよね。野球教室も同じで、野球をプレーする以外のことで幸福度を上げ、同時に野球の普及にも貢献していきたいと考えてます。
その取り組みはどのような影響が出ていますか?
野球部であれば、通常「チームを強くする」ための目的でコミュニケーションを取ると思うんですよ。ただ、ウェルビーイングを通してさまざまな活動をすることで、野球以外のことでコミュニケーションを取ったり、人間関係を構築することができます。試合に出場する機会がなかなかない選手でも、小学生に教えてみたら、とても上手に教えたり、盛り上げてくれたり・・・野球以外のことをすることで、選手のいい面がどんどん見えてきます。そしてお互いのことを野球以外を通して知ることで、「勝ちたい」という思いのベクトルも合ってきたように思えます。
所属している学生には4年間でどのようなことを学んで欲しいですか。
正直、準硬式野球からプロ野球選手になるという進路は限られたごく一部ですので、野球が直接的に自分のキャリアに繋がるということは難しいです。
では、「なぜ、準硬式野球をやるのか」毎日朝7:00から練習をするのか。プロを目指さないなら、自分の将来に直接繋がることに時間を充てた方がいいのではないでしょうか。
準硬式野球は限られた環境に対して学生同士が知恵を出しながら、創意工夫をしていく良さがあります。我々も練習場はアメフット場で行っています。
一見するとネガティブ要素になるであろうものを我々にしかできない個性と捉え、前向きに頑張り続けることができるのが準硬式の良さです。
「アメフット場から日本一を目指す野球部」は我々にしかできない取り組みです。
こうした発想の転換や、創意工夫をすることが、予測不能な目まぐるしい変化を遂げる現代社会では必要な学びと思っています。
自チームの学生にどのような大人になっていって欲しいですか。
自分以外の誰かを純粋に応援できるような大人になっていって欲しいです。自チームでは基本的に失敗を咎めないスタンスで、プレーしています。というのも、野球はそもそも失敗のスポーツです。3割打てたら良いと言われています。ですので、失敗咎めたり、失敗を引きずるのではなく、その分、成功の数を積み上げていけばいい、というスタンスです。自チームの学生には、ミスをした選手に対して「どのような言葉をかけたら、次にその選手が前を向き、成功するのか」を考えてもらっています。全員がそれをできるようになれば、いい組織になります。何かに苦しんでいる人たちを勇気づけられるような人間になっていって欲しいです。
最後に、若者へのメッセージをよろしくお願いします。
まず、自分自身が幸せになってください。そして周りの人たちも幸せになるようなアイデアを出してください。自分の幸せに加え、相手の幸せも考えられるような選択ができる人間になってもらえればと思います。