読書日和 代表 福島 憲太

社会的意義ある本を 障害超えて送りたい

静岡県浜松市で「視覚障害者と仕事」など、社会的に意義があるものをテーマにした書籍を世に送り出している読書日和。自身も視覚障害を持つ福島憲太代表は「障害があっても信念を貫いていけることを伝えたい」と力を込める。

障害者の可能性を伝える

福島代表は、一般企業での事務職からフリーライターに転身した後、出版社勤務を経て、2018年に読書日和を立ち上げた。右目の視力がほとんどなく、左目も0.08で日常生活も不自由な弱視だが、「視覚障害者が出版社を立ち上げるというのは、第三者から見ると非常に不思議に思われるようですが、編集作業もルーペなどのツールを使えば不都合ありません」と語る。

発行する書籍に、文章を読み上げるソフトで利用できるテキストデータ引換券を付けているほか、UD教科書体と呼ばれる読みやすい書体を使うなど、視覚障害者でもできるだけ読書を楽しめるように配慮している。2021年には自身と同じように視覚障害を持ちながら働き続ける人々にスポットを当てた「あまねく届け! 光~見えない・見えにくいあなたに贈る31のメッセージ~」を出版した。視覚障害は、病気や事故などで後天的に障害を負うことも多く、在職時に障害者になった場合にどう働き続けるのか、という問題にアプローチした。福島代表は「視覚障害者というとマッサージの仕事などを想像されるかもしれませんが、事務職やIT職などさまざまな職種、さまざまな働き方で活躍しているので、多くの事例を紹介しました」という。

障害に負けず経営者として信念を貫く

2023年で設立6年目を迎え、福島代表は「ひとり出版社ですが、同じような形で出版社を経営している先人も多くいるので、諸先輩に学びながら、著者や編集者、ブックデザイナー、印刷会社など、私をハブにいろいろな人をつないでいきたい。もっとたくさんの人に本を届けていきたい」と語る。

福島代表自身が金子あつしというライター名で執筆する書籍もあるが、「『あったらいいな、こんな本』をカタチにする」をコンセプトに、よりバラエティーに富んだ著者の原稿を形にしたいと、自費出版も請け負っている。2022年には、長崎の戦災孤児の手記「いっしょうけんめいきょうまで生きてきたと! 長崎県立養護施設『向陽寮』の元寮生たちの手記」を世に送り出した。

「読書離れと言われて久しいですから、まずは読んで楽しい本。加えて、読んだ後に考えてみたくなる後世まで末永く残していきたい資料としても貴重な本、描かれている場所に行きたくなるような本など、読むプラスアルファを届けられるものを作っていきたい」と語る。

 福島代表は「視覚障害があっても、経営者として信念を貫いていけることも伝えたい」といいながら、「あまり考えず、肩ひじ張らずにやっているのが実態かもしれません」と笑顔を見せる。「今後は総合出版社を目指してさまざまなジャンルの本を発行していきたい。本というのは、読者の方があってのものなので、読書が最高の時間になるような本や社会的に意義のある本を出している出版社が、浜松市にあるということを、もっと広く知ってもらえるようにアピールをしたい」と語り、「浜松市にゆかりのある本も作っていきたい」と思いは尽きない。

読書日和代表
福島 憲太
1983年、福井県出身、京都府育ち。2018年6月静岡県浜松市に出版社として事業を開始。フリーライター、金子あつし名義での著書に『風疹をめぐる旅~消される「子ども」・「笑われる」国~』、『ひかりあれ!~二分の一成人式の前に家族について調べてみた~』、『今日もゲームの世界にいます』(どちらも読書日和)
http://dokubiyo.com/