ペンション サードプレイス オーナー 株式会社YOLO 代表取締役 橋本 敏宗

波が悪くても来てもらえる場所に

千葉県一宮市。九十九里浜の南端に位置し、多くのサーファーがあこがれるサーフィンのメッカだ。2021年の東京五輪の正式種目に採用されたサーフィンの会場ともなり、世界にも知られるようになった。

東京からのアクセスの良さと、過ごしやすい自然環境に恵まれ、通勤圏の住宅地や別荘地としても注目されている。

橋本敏宗氏は、オリンピック会場にもなった東浪見海岸でペンション「サードプレイス」を経営し、サーファーたちからも愛される存在だ。橋本氏がこの地に移り住んだのは約20年前。移住した最大の目的はもちろん、サーフィンだ。(文・寺崎祐樹)

ーー中学生の時、初めて先輩からサーフボードを譲り受けサーフィンを始めました。兄がスポーツショップに勤めていたこともあり、いろいろと教えてもらい、すぐにサーフィンに夢中になりました。東京から週3〜4日は千葉に行く日々でした。

もっとサーフィンに没頭したいと思っていたところ、先輩の勧めもあり、22歳の時、一宮の隣のいすみ市に移り住みました。

当時は周りにも移住組、特に自分と同じ世代や少し上の世代の方も多く、すぐになじんで良い関係を築くことができました。海に入れば誰かしら知り合いがいて、一緒にサーフィンを楽しめる、そんな環境でした。

移住翌年からサーフボードメーカーに勤め、約10年間、製造や営業・販売で日本全国を飛び回る日々が続いたが、2015年、「ペンション トド」(現サードプレイス)で、アンテナショップ「シーマイルズ」を開いた。シーマイルズは、現在も多くのサーファーのよりどころになっている。

千葉でサーフボードの試乗会などを開く際に、よく「ペンション トド」を使わせてもらいました。当時のオーナーと意気投合し、ペンションの中にアンテナショップを作らせてもらったのが、今のシーマイルズです。

シーマイルズ(SEAMILES)には多くのサーファーが集まる。写真はスタッフの入江氏

トドのオーナーは、寡黙でしたが、お酒を飲むとよく話し、みんなと楽しく過ごすことを大事にしている人でした。

残念なことにオーナーが亡くなり、ショップを運営していたご縁で、ペンションを引き継がないか、というお話になってペンション経営を始めることになりました。

初めの数年間は必死でした。下の子もまだ小さく、自分もまだサーフボードの営業活動を全国でしていたので、妻にも協力してもらいながら、もちろん年中無休でした。

資金もあまりない中でのスタートでしたので、内装や設備も改修も最低限で、そこから少しずつ改装して今の形になりました。

今でも毎年毎年、来てくれた方に喜んでもらえるように、少しずつサービスを追加し、施設も新しいものを足していっています。大事な時間を使っているお客様にリフレッシュして帰ってもらいたいのです。

いい波に乗って、心地よい環境でお酒を飲んで、そこにいる方と交流を深めて、「いいトリップだったな」と思って帰ってもらいたい。そのためにはペンションとして常々考えてケアをしているつもりです。

ペンションには地域でも最大級の駐車場が完備。県外ナンバーの車も多く見られる

県内外から多くの人が集まるにつれ、地域に根ざしながら、ペンションとサーフショップを運営するには、地元の人とのバランスを取ることがとても重要だと実感したという。

ーーここ一宮には全国から多くのサーファーが集まりますが、当然、地元の方々も多くいらっしゃいます。

「サードプレイスができてから海が混んだ」というイメージを持たれたこともあると思います。

夏場は特に多くの人が集まるので、サーファー同士でトラブルになることもありました。

お店にも看板などを立てて、ビジターの方々にも理解を深める努力をしていますが、スタッフにも一番重要なこととして、「あいさつすること」を伝えています。

まずは私たちが率先してあいさつをすれば、そこにまたあいさつが生まれ、自然といい空気感を作れるようになっていくと考えています。

サーフィンをしなくても「最近どう?」のようなコミュニケーションが生まれる

一宮には、高齢の農家も多く、フードロスや、安く買われてしまう状況に少しでも貢献できたらと考えて、まだまだ小さな規模ですが、地元の農家と提携し、地元で採れた農作物を購入しています。、ペンション横に併設しているお店では、地元の農作物を使ったピザも提供しています。ゆくゆくはここでマーケットのようなものをここで開いて、地元の人と来訪者のコミュニケーションの場にできればと思います。

将来の移住先の視察として宿泊される方も多いです。既に数組、移住をしてきた方もいます。私も移住組ですので、そういった方には、一宮のいいところも悪いところも伝え、少しでも移住のきっかけにしてもらえれればうれしいです。

橋本敏宗の、根ざし方

ーー2020年、一宮町の釣ヶ崎海岸が、東京オリンピックのサーフィン競技会場になり注目を集めましたが、サードプレイスはアメリカ代表の宿舎に選ばれ、数週間滞在してもらいました。

金メダルを獲得した​​カリッサ・ムーア選手

ペンションによく宿泊して頂いたお客様が、アメリカチームの宿泊施設などをアテンドする係で、
トントン拍子でサードプレイスが選ばれたのですが、本当に光栄なことでした。

サーフィンアメリカ代表を迎えるにあたって描いた壁画

実はアメリカチームの皆さんが、ペンションの中にある「Third place」のロゴを見て、文字を修正して「First place」に変えてくれたんです。金メダル(一番)を取る、という意味もあったのですが、「最高の場所だ」という意味で、サードプレイスを賞賛してもらったのだと思っています。

アメリカ選手団が書いた「First place」

オリンピックをきっかけに今後海外のニーズも増えると思いますし、ペンション経営もまだまだ多くの改善余地があり、さまざまな可能性が出てきたと思います。

現在は9部屋しかありませんが、今後は一棟貸のバケーションレンタルハウスや、ペット宿泊型のトリミングサロンも検討しています。

サードプレイスの常連には、私の子供と同世代の子供連れも、親戚が遊びに来てくれるような感覚です。年末年始になると必ずご予約を入れてくれたり、年1回、ゆっくり過ごされる方も多くいらっしゃいます。

お客様から元気をもらえるし、ここにずっといるだけでは学べないようなことを教えてもらえることも多く、本当にありがたいと思っています。

これからもこの地域に根ざし、全てのお客様に「帰ってくると居心地の良い第三の場所(サードプレイス)」を作っていきたいです。

「波が悪くてもサードプレイスに行こうよ」

ーーそう言ってもらえる場所であり続けたいと思っています。

<プロフィル>

橋本敏宗(はしもと  としむね)

1979年生まれ、東京都足立区出身。学生時代にサーフィンに触れ、22歳の時に千葉県に移住。サーフボードメーカーでサーフボード製造とショールーム、営業業務を約10年務め、クォーターサーフボード総代理店、アンテナショップ経営として独立。2015年にサーフショプ「シーマイルズ」をオープン、2016年に「ペンション  サードプレイス」をオープンした。

ペンション  サードプレイス
https://www.pension-third-place.com/

2022年2月